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  • 2018.03.27 Tuesday
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セックスと嘘とシンガポール・スリング

タツヤはよく喋る。

さっきまではバーで自らの夢を語り、今はベッドで私(のからだ)への愛を語っている。

「お前ほど相性のいい女はいないよ。別れても、たまにやらせろよ」

行為の間じゅう、こうした下衆なことをいうのが彼の常である。

ひどい、と私が抗うと、

「俺には逆らえないだろ?」

と、タツヤは枕元の小箱に手を伸ばした。
そこには細くて丈夫なロープがはいっている。タツヤは私の脚を開き、左右それぞれ、手首と足首を合わせて縛った。私は無様な蛙のようになって、いやいやをすることしかできない。

タツヤは好きに私を嬲った。

仰向けにしたり四つ這いにしたり、髪を掴んだりしながら、タツヤは笑みを浮かべている。それは妙に純真な、子供のような表情で、私はそういう彼を見るのが好きだ。

私の顔や胸にかかったみだれ髪を優しく払いのけたタツヤは、首筋を撫でたかと思うと、強く力を込めて締めつけた。

彼は私に声を上げさせることを好む。だから私は、つぶれそうな喉からかすれた声をしぼりだす。声を出そうと力めば力むほど、意識が朦朧とする。血管が脈打つのがわかる。

そこに性的な快感があるかというとそれは微妙で、でもなんらかの恍惚感はたしかにあった。タツヤは苦しむ私を見るのが好きで、私は意識が遠のく感じが好きだった。互いに合意の上での愉しみだった。

あ、と私は思った。

なにか突き抜けるような感があった。

苦しくて苦しくて、そして急に、締めつけを感じなくなった。タツヤの荒い息も、私の喉が鳴る音も聞こえなくなった。でも、タツヤは変わらず私の上で首を絞めつづけている。

タツヤ!と、口をぱくぱくさせているつもりなのだけど、声が出ないし、一向に気づいてもらえない。そして私はふわふわとした感覚とともに、肉体感覚の一切を失った。ベッドの上の自分が見えるし、タツヤも見える。でも厚いガラスの向こうにでもいるみたいに、意思の疎通がまるでできないのだ。

タツヤは痙攣ののちに弛緩して、私の上に倒れこんだ。呼吸が落ち着いて、私の頬を撫でた彼は、やっと異変に気づいたようだ。

「ジュン!おい、なにやってんだよ?ジュン!」

タツヤは激しくわたしのからだを揺さぶっている。アレは抜けたのかな?なんて、ななめ上からなす術もなく眺めているしかない私は、変なことが気になった。

ぐんにゃりとした私のからだを、タツヤは茫然と見つめていた。さっきまで熱を帯びて紅潮していた背中から、みるみる血の気が引いていった。

「そんな……」

タツヤは、ロープを解いて自由にした私の手首を掴んだり、首筋に手を当てたり、胸に耳を押しあてたりと、懸命に命のしるしを探している。でも無駄だよ。だって私は、こんなところに浮かんじゃっているのだもの。つんつんと頭をつつきたいところだけれど、肉体を失った私には、物理的な活動ができないようだった。必死に念を送ってみても、一向に通じる気配はない。

「そっかー……」

タツヤは頭を抱えて、ベッドに腰掛けた。彼には私の念が伝わらないようだけれど、私は、彼の頭のなかに浮かぶ思いを、なんとなく感じることができた。

死んじゃうなんて……どうすりゃいいんだよ? でも、死体って……ちょっと気になるかも……

つくづく下衆な男である。私は呆れて見ているしかなかった。死んだわたしに、さらに挑みかかる恋人の姿を。

なるほどね……アリだな……

性的好奇心を満たして満足げなタツヤは、私のからだから離れ、下着を着けはじめた。

どのタイミングで死んじゃったのかな? 一瞬ビクっとしてた、あの時かな? ある意味幸せだよな……

服を着終わったタツヤは、私の乱れた髪を直し、キスをくれた。

……冷てえ! やっぱ人って死ぬと冷たくなるんだな……

そしてタツヤは毛布を引っぱって、わたしの肩から下を覆った。

……もうできなくなるんだな……淋しいよ……でも、おまえの趣味のせいでこんなことになっちまったんだぜ?

私は間違いを指摘したくて、いてもたってもいられなくなった。「私の」趣味だなんて。おかしなことを試みたがるのは、いつだってタツヤのほうなのに。嫌じゃなかったことは否定しないけれど、私のせいにするなんてひどい。

私は、ポルターガイスト現象のひとつも起こせやしないかと、カレンダーをめくろうとしたり、グラスを倒そうとしたりした。でもいかんせん、あるようなないような存在になってしまった私には、叶わないことだった。

……ちょっと可哀想だけど、俺、行くぜ?

私は、恨みがましい気持ちで見ているしかなかった。

……俺のことってバレるのかな。どうしよう……

タツヤは、急ぐでもなく部屋を出ていった。煙草をふかしながら……。

追うこともできたのかもしれないけれど、私はただ、自分の肉体のまわりにふわふわとしていた。からだが、見たこともないほど蒼白くなっていくのがわかった。首のまわりには、紫色の手の跡が浮かびあがり始めていた。

タツヤがどこへ行くつもりか知らないけれど、私のなかに残された彼の体液が、最期に私と密接な関係を持った男性を生物学的に特定するだろう。胃のなかのアルコールを分析すれば、それがシンガポール・スリングであったことも、ここから徒歩5分のバーで供されたことも、そしてそれを私と一緒に飲んだ男についてもわかるだろう。

タツヤに愛されて、死ぬことになったことはいいの。罪にも問われて欲しくない。でも、私のせいにされるのは嫌だな。だってそれはほんとうのことじゃないから。嘘は嫌いだって、言ったでしょう?



※これはフィクションです

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