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  • 2018.03.27 Tuesday
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推定無罪 -1-

私は手を合わせて祈っていた。

せっかくの週末に、夫と諍いになり、いたたまれず家を飛びだした。引っ越してきたばかりで勝手のわからない近所を歩くうち、小さな神社に行きあたった。そしてすがるような気持ちで、神前に立ったのだった。

「このままあの人と暮らしていけるのでしょうか? この結婚は間違っていたのでしょうか? 私にはわかりません。ただ、傷つけあうことのない生活をしたいのです。穏やかに暮らしたいのです。神様、どうか見守ってください。お導きください」

閉じた瞼が熱くなって、涙が滲んだ。夫と出会って、恋をして、結婚した。たくさん笑った。そして、同じくらい泣き、叫び、傷を負った。街を歩けば、数多くのカップルとすれ違う。彼らのうち、どれほどの男が、パートナーを殴るだろう?
胸が痛い。すりむいたようにひりひりする。

眼をあけた。大きく息をついた。一礼して向きなおると、白い猫が佇んでいるのがみえた。美しい猫だった。そろそろと近寄ってみる。猫は大きな瞳でじっとこちらをみている。金と銀の瞳、オッドアイだった。

ある距離まで近寄ると、猫はゆっくりと歩きだした。ついてきな、とでもいうように、こちらを振りかえり、振りかえり、歩いていく。

私は猫のあとをついていった。猫は、本殿の裏手のほうへと向かっていく。垣根と雑草が茂り、ひっそりと落ち着けそうな場所だった。猫は、変な声で鳴いた。オッドアイの猫には、耳が聴こえない子が多いという。この子もそうなのかな、と私はおもった。

猫はその場に座った。背すじをぴんと伸ばし、客人を迎えたふうにすましている。その仕草が愛らしくて、私はふっと笑った。猫にさらに近づいた。猫は姿勢よく座って、私を受けいれた。私はそっと猫の喉元を撫でる。猫は眼を細めた。私はうれしくって、猫が喜びそうなところをくすぐった。ちりちりとした胸の痛みが、薄れていくようだった。

なんとはなし、人の気配を感じて顔をあげると、無骨な初老の男の姿があった。作業着のような服を着て、手には小さなビニール袋を下げている。猫に会いにきたけれど、私がいるので近づきにくいのかな、とおもった。私も、彼の猫に手をだしたみたいで、変に気恥ずかしい気持ちになった。
 
目が合って、ふたりともなんともいえない表情になって、軽く頭をさげた。立ちあがって去ろうとしたら、猫が服の袖につめを引っかけ、まて、というようなふうをするので、私は困って、猫に

「痛いよ、駄目でしょう」

と小さくいった。

「お嬢さんにおいたしちゃ駄目じゃないか、なあ?」

男は、皺だらけの灼けた顔をくしゃくしゃにして、笑った。私もふっと緊張が解けて、笑った。

「悪い子はめし抜きだぞ」

男は、ビニール袋から猫缶を取りだし、猫の鼻先にちらつかせた。猫は変な声を出して、男の足にまとわりつく。

男は、缶の中身を石畳のうえにあけた。猫は夢中でかぶりつく。

さらに男は、ビールの缶を取りだした。

「お嬢さん、飲むかい?」

「え??」

戸惑う私に、男は缶ビールを押しつけ、袋からもう一本同じ缶を取りだした。

「いつも独りで2本飲んじまうんだけどね。よかったら飲みなよ」

私たちは缶ビールで乾杯した。猫がサカナだった。白いからシロって呼んでんのさ、と男はいった。

 
(つづく)

※これはフィクションです

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