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  • 2018.03.27 Tuesday
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B-52

おれはジンを飲んでいた。氷の入ったグラスから腹の底へと流れ落ちていくとき、その液体は炎に変わる。

焼けてしまえばいい。何の跡形もなく、焼け落ちてしまえばいい。


今日、離婚のペーパーワークがすべて終わった。もう3年も別居していたのだから、今さら、ではある。だけど何かこう、元妻と繋がれていたもやもやとした糸のようなものがすっぱりと断ち切れたようで、肩の荷を投げ捨てたような開放感と、後ろめたさがあった。
たとえば、
とおれは考える。

ひとつおいた席にいる、ひとまわりは齢下であろう女とどうにかなっても、誰にも文句はいわれないのだ。

そう考えて、馬鹿馬鹿しくなって、もう一口、ジンをあおる。

今までだって同じだった。文句を言われようと言われまいと、好きなことだけやってきたのだから。何も変わらない。


「おじさん、」

女に声をかけられ、おれは頭のなかを見透かされたかと驚き、椅子から転げ落ちそうになった。

「漫画みたい。絵に描いたような『やけ酒』ってかんじ」

女はそういって、唇の端をちょっとまくれ気味にして、笑った。きれいだ、と思った。すこし毒々しいような化粧をしていたけれど、よく似合っていた。こういう女の趣味が、おれの破滅のもとなのだと思う。

「おじさんは酷いな・・・」

おれは照れ隠しに、煙草に火を点けた。女は酔っているのか、とろんとした眼をしていた。その廻りを黒々と縁取るアイラインはいかにも濃すぎて、すこし滲んでいた。

「じゃあ、おにいちゃん?」

女はくすくす笑っている。きっと馬鹿なのだろう。付き合いでもなく、ひとりで飲んで酔っ払うような人間は、多かれ少なかれ、馬鹿だ。

「いいよおじさんで。本当のことだからさ」

おれは女に飲むかい、と訊いた。女はこっくりと頷き、暗号のような言葉を口にした。おれが訊きかえすと、

「B52っていうの。飛行機であるでしょ、バーンって撃つやつ」

といった。

その物騒なカクテルは、青い炎をあげて運ばれてきた。

「バーン!」

といいながら、女はうまそうにショットグラスを干した。


おれたちは飲み、飲み、ぐだぐだに酔った。酔いに委せて女の肩を抱き寄せると、彼女はおれの頬をしたたかに張った。

「やめてよ!たった数杯のお酒でどうかできるほど安くないんだから!」

「ごめん、悪かったよ」

女はなぜだか泣き出した。店に客はそう多くなかったが、おれはひどくきまりの悪い思いでいっぱいだった。泣かれるようなことはしていないっていうのに。

「泣くなって、な?」

おれは女の頬を伝う涙を指先で拭った。化粧が落ちたのか、黒い色がついた。どうしようもない。


「もう帰るよう」

女はおれの胸にすがって泣いた。泣いている理由も、すがってくる理由もわからない。おかしな生きものとしかいいようがない。

しゃくり上げる女を連れ、好奇の眼に晒されながら、おれは店を出た。

「送ってよう、すぐそこなんだから」

とだだをこねる女に言われるがまま、コンビニで菓子を買い与えたりしながら、おれは彼女の部屋へと付き添っていった。

女の部屋は、すぐそこというにはすこし遠かった。階段をのぼり、部屋の前までたどり着き、おれの中にはいくばくかの逡巡があったが、ぽんぽんと女の背を叩いて別れを告げた。

「ちゃんと鍵かけろよ。あんまり飲み過ぎないようにな」

女はおれの顔をまじまじと見て、憎々しげな表情を浮かべたかと思うと、涙をぼろぼろとこぼして叫んだ。

「いくじなし!」

「え?」

おれは戸惑うと同時に、近隣のことが気になって、どうしたものかと頭を抱えた。

「いくじなし!いくじなし!」

おれには女をどうすれば黙らせられるのか、見当もつかなかった。無理無理無理。おれは走り出した。

「夜中だぞ!さっさと寝ろ!」

「馬鹿!どっかいっちゃえ!」

女は靴を脱いで投げつけてきた。あまりいい状態ではなさそうだが、とりあえず自宅まで帰り着いたのだからなんとかなるだろう。


おれはよろめきながら走る。肩越しに女の声が聞こえる。おれは馬鹿で、いくじなしだ。結婚した女も、酒場で会った女も幸せにすることができない。

ここからどこへと向かっているのか。何もわからず、おれは足を前に投げ出し、投げ出し、前進し、何かに躓いて地面に倒れた。


馬鹿の上にも、月の光は等しく降り注ぐ。




*これはフィクションです



 

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  • 2018.03.27 Tuesday
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  • 21:39
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コメント
リアルなおっさん感が伝われば幸いです★

男性は人目を気にするんだよね。
女性は、自分の感情が激したときには周囲が一切目に入らなくなる。
  • ぷみ
  • 2009/06/09 10:52 AM
管理者の承認待ちコメントです。
  • -
  • 2009/06/09 10:44 AM
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