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  • 2018.03.27 Tuesday
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Cosmopolitan

僕が理沙と関係を持ち始めたのは、付き合って2年になる美穂との間に結婚の話しが出始めた頃だった。

いつかは結婚というものをするだろうと思っていたし、きちんとしていて僕の両親にも気に入られている美穂はその相手には申し分なかったし、付き合い始めの情熱こそ失われていたものの、彼女との結婚に気が進まなかったわけではない。

けれども、責任やしがらみのようなものが肩のうえで少しずつ重みを増していくような感覚に息苦しさを感じていたことは間違いなくて、そんな時に知り合った理沙と過ごす時間は、束の間解放されるような心地よさがあり、癖になった。
理沙は僕に交際相手がいることは承知していて、別に気にもしていない風で、というのも彼女は常々「特定の男なんて面倒なだけ」という持論を口にしていたのだ。

僕は理沙が僕を含む不特定の男たちと楽しんでいるのだろうと考えていたし、それは僕にとっても都合のいいことだった。

とはいえ、僕たちは美穂や、理沙が関係を持っているであろう他の男たちの話しをすることはなかった。隠しはしないけれども、あけすけに語ることもなかったのだ。それは理沙の美学のようなものだったのかも知れなくて、いつだか彼女は「だって眼のまえにあるものがすべてじゃない?誰かと一緒にいるときは、その人と自分との関係だけに集中すればいいとおもうの」なんて言っていたことがあった。


11月の冷たい雨の夜だった。
僕と理沙は、ドライブへいつ行こうかと話していた。理沙が挙げた候補日は、偶然にも僕が美穂と結婚式を予定している日だった。

「その日は駄目なんだ」
「何かあるの?」

僕は言葉に詰まった。別に言っても構わないのだけど、なんとなく口にするのがためらわれたのだ。一瞬の逡巡ののち、特に深い考えなく、僕は答えた。

「うん、実はその日に結婚式やることになってて」

理沙は小さく驚いたようだったが、すぐに笑みを浮かべて言った。

「そう。おめでとう」
「ありがとう」

結局ドライブはもう少し先の日に行くことになった。当日、いつものように僕は理沙を迎えに行った。僕たちは海へと車を走らせた。車中の会話はこれまでと変わりなかった。結婚式のことには、僕からも理沙からも触れなかった。

楽しく一日を過ごし、理沙が車から降りるとき、僕はいつものように彼女にキスをしようとした。理沙は一瞬からだを硬くした。

「悪い旦那さんだね」
「……そうだね」

僕はひるんだけれど、理沙がすぐにいつものように唇を差しだしたので、ほっとしながらキスをした。そして手を振って車を出した。


それからしばらく、お互い忙しい日が続いた。何度か会おうと連絡を取ったけれど、タイミングが合わなくて会えずじまいだった。


そろそろ顔が見たいなどと思っていたある日、美穂が友達の結婚式のため、数日実家へ帰ると言いだした。ちょうどいい機会と思い、僕は理沙にメールで都合を打診した。普段よりずいぶん返信が遅いので、何となく気になって電話もかけてみた。けれど電話にも応答はなく、コールバックもなく、僕はなぜか嫌な胸騒ぎを覚えた。

仕事帰り、理沙の部屋へと向かった。部屋の灯りは点いていなかった。中の様子はうかがえないけれど、ただの留守宅というより、そもそも誰も住んでいない部屋のような、がらんどうな印象があった。立ち去りがたく、首をひねりながらドアの前に佇んでいると、不意に低い男性の声がした。

「ナカノさんのお知り合いですか」

ナカノ?僕は戸惑ったが、どうやらこの部屋の主、つまり理沙のことを指していると思われたので、曖昧にええまあ、などと答えた。そういえば、苗字を聞いたことはついぞなかったのだ。

「この度はどうも、ご愁傷さまでした」
「はい?」
「もしかして、亡くなられたことご存じありませんでしたか?」
「亡くなられたって……」

僕はただ絶句するしかなかった。鋭い目つきの男は警察の者だと名乗り、理沙の遺体が1週間前にこの部屋で発見されたこと、死因は薬剤の過剰摂取によるショックであったこと、事故もしくは自殺のような状況ではあったが他殺の可能性も否定できないため現在捜査中であることを、時折僕の顔色を窺いながら告げた。僕は何も考えられず、ああとかはあとか言いながら、男が発する言葉を受け止めるだけだった。

「すみませんが、少しお話し聞かせていただけませんか」

僕は我に返った。男は僕から事情を聞こうというのだ。理沙を知る人物として、僕にもいくばくかの疑いがかけられているようだった。

真っ白な頭の片隅に、まずいことになったという思いが一点の染みのように広がっていった。罪に問われるようなことは何一つないけれど、道義を問われることは間違いない状況だった。警察に話すのは構わないが、美穂や家族に知れるのはまずかった。

しかし断れる訳もなく、僕は署へと同行し、素直にありのままを話した。事情聴取は一度では済まず、電話や自宅への訪問もあって、ついに美穂にも事情を話す羽目になってしまった。

美穂は沈黙した。
新婚早々、僕たちは奇妙な無言の生活へと突入した。

僕はたびたび理沙の部屋の近くの警察署へ出向き、事情聴取を受けた。理沙の親ほどの齢の刑事は、僕を冷やかな眼で見つめていた。いたたまれない気持ちで署を後にした僕の足は、いつか理沙と行ったバーへと向かっていた。

「いらっしゃいませ」

バーテンダーは僕の顔を見て、一瞬固まったのち、深々と頭を下げた。

「この度は本当に……」

僕は黙って軽く頭を下げ、腰掛けた。
理沙が好きだったコスモポリタンを頼んだ。何も味が感じられなかったが、次もその次も同じものを頼んだ。今日刑事が見せてくれた、理沙の手帳に書かれた言葉を思い出していた。

誰もあたしと未来を見ない

とそこには書かれていた。刑事は僕を責めるように言った。

「あなたは結婚した。これからの人生を奥さんと歩いていこうと決めたわけです。しかしその前も、その後も、変わらず彼女との関係を続けていた。一生共にする気はないが、今この瞬間だけ楽しむためにね」

瞬間を楽しみたいと言っていたのは理沙だった。僕はそこに乗っかっただけのつもりでいた。気が変わったのか、強がりを言っていたのか、いずれにしても彼女は刹那を生きることで幸せではなかったのだ。僕はそれに気付かなかった。理沙の幸せなんて、考えたことすらなかった。だって彼女は都合のいい時だけ遊ぶ女でしかなかったから。騙していた訳じゃなし、理沙が死んだりしなければ、別によくある話しだったはずだ。だけど。だけど。

僕は、泣いた。

理沙を弔う涙を流して、涸れるほどに流して、僕は腫れた瞼をこすり、席を立った。


美穂は僕を許した。
僕たちはぎくしゃくしながらも、結婚生活をリスタートさせた。

死んでしまった女にしてやれることは何もない。生きて目の前にいる美穂を大切にしてやること以外、僕にできることなどあるだろうか。

ひとつだけ、いまだに美穂に秘密にしていることがある。それは、暇をみては一人で飲みに行き、コスモポリタンを頼むことだ。たとえ遅すぎるとしても。淋しい思いをさせた、理沙へのせめてもの供養に。


*これはフィクションです

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